大判例

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東京高等裁判所 昭和29年(ネ)571号 判決

次に控訴人等の権利の濫用の抗弁について考える。(中略)を綜合すれば、控訴会社は倒産した訴外七欧無線株式会社の事業の再建並びにその従業員を救済するために昭和二六年一〇月八日設立された会社であり、従つて右訴外会社の従業員を引継ぎ、本件工場建物を右訴外会社より賃借して、事実上その事業を承継して今日に至つていること、(右賃貸借は国税滞納処分の差押後になされたものであるから落札者に対抗できない)控訴会社は落札者たる被控訴会社に対し現に占有中のものを除き工場のその余の部分及び機械器具類を引き渡していること、及び控訴会社において本件工場の占有部分の明渡をなすことになれば、その移転先を得ることが容易にできないことであり、かくては事業の経営もできなくなり、現在一二、三名の工員(原審口頭弁論終結当時は五〇人の従業員がおつたが、その後不景気のためと夏枯れのため二〇人余の工員を休ませている)とその家族は一同路頭に迷うことになるおそれがあることは十分これを窺うことができるところであるが、控訴会社が本件物件の占有につき被控訴会社に対抗し得べき権原を有していないことは前段認定のとおりである上に、既に一、において説明したように、被控訴会社は事業拡張の必要のためと、静岡県田方郡大仁町にある工場が狭少不便のため本件物件を落札したものであつて、右落札後しばしば控訴会社に対しその明渡を求めたが、明渡を受けることができなかつたため、やむなく他から工場を賃借又は買収したのであつて、もし本件工場の明渡を受けることができれば直ちに事業拡張計画の遂行の意図があることが明らかであるから、被控訴人の本訴明渡の請求を、被控訴人に何等の利益をもたらさずただ控訴人等を害するためにのみなされたものであるとか、或は控訴人等の損失をかえりみずただ自己の利益のみに急であるものということはできない。その他本訴明渡の請求が公共の福祉に反するとか、信義誠実の原則にもとり権利の濫用であると認めるに足る証拠がないから、控訴人等の右抗弁はこれを採用することができない。

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